伝説の映画監督モンテ・ヘルマン21年ぶりの新作
ニューシネマの伝説的な作品としてアメリカ映画史に燦然と名を残す『断絶』。クエンティン・タランティーノ、 ヴィンセント・ギャロをはじめとする多くの映画人たちに強烈な影響を与えつつも、一方で興行的な不振のために 彼はその後、映画作りそのものとの苦闘を余儀無くされることになる。そして『ヘルブレイン/血塗られた頭脳』 (89年)を最後に長編作は途絶え、「伝説」の「呪われた映画監督」という言葉だけが流通するばかりとなった。
もちろん世界はヘルマンを忘れたわけではない。その間も『断絶』のDVDは形を変えて何度もリリースされ、 ミュージシャンであり映画監督でもあるロブ・ゾンビは『断絶』の原題である「Two-Lane Blacktop」という曲を作り、 「I met a gypsy girl and took her on the track / The kinda girl walk / The driver don't talk」と、まさに『断絶』の風景を歌った。そして03年にはウィルコ、ソニックユース、 キャレキシコなどが『断絶』へのトリビュート・アルバム『You Can Never Go Fast Enough』に参加する。 多くの映画好きが自身を『断絶』に投影し、そして彼の新作を待ち望んでいたのである。
そんな彼の新作長編映画が、21年ぶりに完成した。
ヘルマンの娘がプロデュースを買って出た本作は、すべてをデジタル撮影するなどさまざまな面に おいて新たな挑戦を行った、若々しさと瑞々しさに満ちた映画。ヘルマン自身も 「あらゆる点でまったく新しい境地に踏みだした」作品だと述べている。映画の「伝説」と最新技 術との不意の出会いと強烈な相互作用が作り出す、閃光のような作品がここに出来上がった。
映画制作のプロセスを描いた映画
久々の新作となった本作の主人公は、まるでかつてのヘルマン自身を思わせる、ハリウッドでの活躍を 期待された若手の映画監督である。そこには、脚本家と共にストーリーを練り、出演者を捜し、制作上の あらゆる問題に対処しようとするひとりの映画監督の姿がある。へルマンと長年タッグを組んできた脚本家の スティーヴン・ゲイドスは、ヘルマンと自分とのこれまでの映画制作のプロセスをモデルに、本作の脚本を 執筆したという。「私たち(ヘルマンとゲイドス)は素晴らしい友人であり、このストーリーは悲惨な人生を 歩んだふたりか生まれたものだとわかる。だから私は、これほどまでに「映画」についての映画を私たちが つくってしまったこと、そしてそれが、ほかでもない私たちの個人的な人生と経験に基づいたものであることを 皮肉に思う」(モンテ・ヘルマン)。
二面性を持ったヒロイン像
謎の女ヴェルマと、もうひとりの謎の女ローレル。ふたりの本当の関係は一体何なのか? 彼女たちは果たして同一人物なのか? 現実とフィクション(映画)の間を彷徨うなか、 彼女の周りにいる者たちだけでなく、映画の観客もまた彼女の存在に翻弄されていく。二面性を もったそのヒロイン像は、『ローラ殺人事件』(44年)のジーン・ティアニー、『ギルダ』(46年)の リタ・ヘイワース、そして『めまい』(58年)のキム・ノヴァクを思い起こさせる。 「それはフィルム・ノワールの基本だ。ヒーローは翼の折れた小鳥と恋に落ち、最後には、彼女によって 粉々に壊されてしまうんだ」(モンテ・ヘルマン)。
本作の中心にあるこの謎の女を演じたのはシャニン・ソサモン。『ロック・ユー!』(01年)をはじめ 数々のハリウッド映画に出演してきたものの、脚本家スティーヴン・ゲイドスは彼女のことを女優とは気付かず、 彼女を見かけたレストランで本作にスカウトしたのだという。まさに本作のローレルとよく似た状況が、 本作を動かし始めたのだ。
21年前のスタッフたちが再結集
ヘルマンの21年ぶりの長編作を支えるのは、かつての仲間たち。脚本家のスティーヴン・ゲイドスは、 『コックファイター』(74年)以来の良きパートナーで、今回は脚本だけではなくプロデューサーとしても、 本作の誕生に大きな力を注いだ。ふたりの親密で濃密な力強い関係の中で、はじめて本作が生まれたと言っていい。 また、撮影監督のジョセフ・M・シヴィット、美術監督のローリー・ポストもまた、21年前のスタッフ。 若き俳優たちと最新技術が作り出す新しいヘルマンの映画を、古くからの力がバックアップすることになった。